【医師が解説】慢性アキレス腱炎の原因と治療法 — 豪徳寺整形外科クリニック(世田谷区)
1. はじめに──そのアキレス腱の痛み、長引いていませんか?
朝一番の一歩でズキッ。ランニング後にズーンと響く痛み。
「年だから仕方ない」「ストレッチ不足かな」と放置していると、炎症が慢性化し、断裂リスクまで高まります。痛みが3か月以上続けば “慢性アキレス腱炎” の可能性が高く、早めの対応がカギです。
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2. 慢性アキレス腱炎とは
アキレス腱は、ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)と踵骨をつなぐ腱です。繰り返しの微細損傷が修復しきれず炎症を起こし、3か月以上続くと「慢性期」と定義されます。特に
- 中高年の市民ランナー
- 立ち仕事・跳躍系スポーツ選手
で多く報告されています。2024年改訂の国際臨床ガイドラインも、発症年齢ピークを30〜60歳と記載しています。 apta.org
3. 症状の背景と主な原因
腱は血行が少なく回復が遅い組織です。以下の要因が重なると炎症が“慢性化”します。
- オーバーユース(使い過ぎ)
強度・頻度・時間の増え過ぎが腱コラーゲンに微細断裂を蓄積させます。 - 柔軟性・筋力の低下
ふくらはぎが硬いと衝撃を吸収できず腱にテンション集中。 - 足部アライメント異常
偏平足・過回内足は踵が内側に傾き腱が引っ張られ続けます。 - シューズや路面環境
クッション性の乏しい靴や硬い路面は衝撃を直に伝えます。 - 加齢・喫煙・高脂血症
微小循環障害が腱の自己修復力を下げます。
ガイドラインでは、**「負荷管理+エクササイズが第一選択」**と強調されており、原因を取り除かなければ治療は長期化します。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
4. 似ている疾患・鑑別ポイント
症状が似ている疾患をまとめました
(鑑別診断リスト:各項目に1〜2文で補足)
- 後方足根管症候群:脛骨神経絞扼による足底しびれを伴うことが多い。
- アキレス腱滑液包炎:踵骨上縁の腫脹が主体で、靴に当たると痛む。
- アキレス腱部分断裂:急激な痛みと腫脹。エコーで線維連続性を確認。
- 足底腱膜炎:痛みは踵の足底側。朝の一歩目が特に痛い点は共通だが部位が異なる。
- 三角骨障害
(※本記事では慢性アキレス腱炎に絞って解説を続けます)
5. 診断と検査の流れ
- 問診・視診・触診
痛む部位、活動量、生活背景を詳細に確認。腫脹・熱感や圧痛部位をチェック。 - 機能検査
シングルヒールレイズで痛みやバランスを評価し、重症度を推測。 - 超音波(エコー)検査
腱肥厚、血流増加、部分断裂の有無を動的に観察。 - MRI
症状が長期化・手術検討例では腱変性度を詳細評価。 - ※レントゲン
石灰沈着や骨棘の有無を確認し、他疾患を除外。
これらを組み合わせ、保存療法でコントロールできるかを判断します。画像検査は治療前のベースライン把握に有用としています。jospt.org
6. 治療法(保存療法・再生医療・手術)
6-1 保存療法(第一選択)
治療オプション一覧
- 負荷管理と段階的復帰:痛みが2/10以下で維持できる範囲に運動量を調整。
- エキセントリック運動:12週間の高負荷トレーニングで腱の剛性と痛みが改善。 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- ストレッチ&モビリティ:腱・足関節背屈可動域を保ち再発リスクを減らす。
- 足底板(インソール)・ヒールリフト:腱張力を15~20%低減させ歩行痛を緩和。
- 薬物療法(NSAIDs):疼痛コントロール目的。長期連用は胃腸障害に注意。
6-2 物理療法・再生医療
- 体外衝撃波療法(ESWT)
低〜中エネルギー照射が腱血流を促進。国内総説でもエビデンスが拡充中です。jstage.jst.go.jp - PRP(多血小板血漿)療法
自己血小板由来成長因子で修復を促進。メタ解析では短期痛み軽減に有効との報告。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
6-3 手術療法(最終手段)
腱変性が強い、石灰沈着が広範、保存療法18か月以上で日常生活に著しい支障がある――
こうした場合に変性腱切除+腱縫縮 or 移植を検討。術後3か月は免荷・装具管理が必要です。
7. 当院での具体的な対応
- 丁寧な評価
生活・競技レベル・目標を共有 - エコー+MRI連携撮影
必要時は近隣MRI施設と即日連携し、画像所見をその日のうちに説明。 - 理学療法プログラム
理学療法士が週1ペースでエキセントリック運動を指導。ホームエクササイズ動画を提供。 - ESWT・PRPの適応判断
症状・期間・画像所見から総合的に提案。施術後は24時間安静指導。 - スポーツ復帰サポート
トレーナーと連携し、ジョギング→ビルドアップ走→インターバル走と段階復帰プランを作成。 - 手術が必要な場合の紹介
腱再建の実績が豊富な都内基幹病院と連携し、術後リハは当院で継続フォロー。
8. まとめと受診のご案内
慢性アキレス腱炎は**「負荷を減らす」「正しい運動療法を続ける」「必要に応じて再生医療を併用する」**ことで大半が改善します。痛みを我慢しても勝手に治ることは稀。違和感が続く方、他院で治りづらい方も、ぜひ一度ご相談ください。当院では患者さんの「歩く・走る・跳ぶ」を取り戻すため、医学的根拠と最新機器を組み合わせた治療を行っています。
記事要約(重要ポイント)
- 慢性アキレス腱炎は3か月以上続く腱の炎症で、中高年ランナーに多い。
- 主因はオーバーユースと柔軟性低下。偏平足や靴の問題も影響。
- 診断は問診・触診にエコー・MRIを加え重症度を評価。
- エキセントリック運動+負荷管理が治療の柱で、ESWTやPRPが効果を補強。
- 保存療法18か月以上無効なら手術を検討。
- 豪徳寺整形外科クリニックではオーダーメイド治療と画像迅速読影で早期復帰を支援。
- 放置は断裂リスク。痛みが続けば早めの受診を。