高齢者の骨粗鬆症:骨折を防ぐための生活習慣
文責:矢口
はじめに
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨密度が低下し骨折しやすくなる疾患で、高齢者や女性に多く見られます。特に高齢者にとって骨折は、生活の質を大きく低下させるだけでなく、寝たきりになるリスクも伴います。
それでは、骨粗鬆症のリスクファクター、予防法、早期発見の重要性、そして治療法について解説します。
骨粗鬆症のリスクファクター
骨粗鬆症のリスクを高める要因には、以下のようなものがあります。
- 加齢: 年齢とともに骨密度は自然に低下します。特に女性は閉経後にホルモンバランスの変化により骨密度が急激に減少します。
- 性別: 女性は男性に比べて骨粗鬆症のリスクが高いです。これはエストロゲンの減少が骨の健康に影響を与えるためです。
- 家族歴: 家族に骨粗鬆症や骨折の経験がある場合、遺伝的要因によりリスクが高まります。
- 体格: やせ型の人は骨密度が低く、骨折のリスクが高まります。
- 栄養不足: カルシウムやビタミンDが不足すると、骨の形成が不十分になり、骨粗鬆症のリスクが増加します。
- 生活習慣: 喫煙、過度な飲酒やダイエット、運動不足なども骨密度を低下させる要因です。
- 薬の影響: 一部の薬(ステロイドなど)は骨密度を低下させる可能性があります。
高齢者に多い4大骨折
1. 大腿骨近位部骨折(股関節骨折)
- 特徴: 最も多い骨折の一つで、転倒して股関節を強打することで発生します。
- リスク: 寝たきりになるリスクが高く、手術や長期のリハビリテーションが必要となる場合が多いです。
- 予防: ロコトレ (バランス感覚の向上や筋力トレーニング)、生活環境の整備(転倒防止の手すり設置など)が有効です。
2. 椎体骨折(背骨の骨折 いつのまにか骨折)
- 特徴: 背骨の骨折で、背中や腰に痛みが出ることが多いです。軽い転倒や無理な動作、場合によってはくしゃみや咳でも発生することがあります。
- リスク: 体の姿勢が変わりやすくなり、慢性的な腰痛や姿勢の悪化(猫背)を引き起こすことがあります。
- 予防: 体幹の強化や、重いものを持ち上げる際の注意が重要です。
3. 橈骨遠位端骨折(手首の骨折)
- 特徴: 転倒した際に手をついて骨折するケースが多いです。
- リスク: 手首の可動域制限や痛みが長期にわたることがあります。
- 予防: ロコトレ (転倒を防ぐための運動)などが必要です。
4. 上腕骨近位部骨折(肩の骨折)
- 特徴: 転倒した際に肩から落ちたり、手をついて転倒することで発生します。
- リスク: 肩の可動域制限や痛みが残ることがあります。リハビリによる肩の機能回復が重要です。
- 予防: 転倒防止の工夫や、肩の筋力強化が有効です。
骨粗鬆症の予防法
1. 食事による予防
- カルシウムの摂取: 骨を強くするためにはカルシウムが必要です。乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)、小魚、緑黄色野菜などを積極的に摂りましょう。
- ビタミンDの摂取: ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます。魚類(鮭、サバ)、卵、きのこ類に含まれるほか、日光浴でも体内で生成されます。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの良い食事を心がけ、特にたんぱく質やビタミンK(納豆や緑黄色野菜)も骨の健康に役立ちます。
2. 運動による予防
- 適度な運動: 骨に負荷をかける運動(ウォーキング、階段昇降、軽い筋力トレーニング)は骨密度の維持に効果的です。
- バランストレーニング: 転倒予防のためにバランス感覚を鍛える運動(ヨガや太極拳)が推奨されます。
- 運動の継続: 運動は継続することが重要です。日常的に無理なく続けられる運動を選びましょう。
3. 生活習慣の見直し
- 禁煙: 喫煙は骨の血流を悪化させ、骨の強度を低下させます。
- 飲酒の節度: 過度な飲酒は骨の健康に悪影響を与えるため、節度ある飲酒を心がけましょう。
- 転倒予防: 家の中の段差や滑りやすい場所に注意し、転倒防止の対策を行いましょう。(手すりをつけるなど)
早期発見の重要性
骨粗鬆症は症状が現れにくく、「沈黙の病」とも呼ばれています。そのため、骨折するまで気づかないことが多いのが現状です。早期発見には以下の方法があります。
- 骨密度検査: 定期的に骨密度検査(DXA検査)を受けることで、骨粗鬆症を早期に発見できます。特に閉経後の女性や高齢者は、検査を定期的に受けることが推奨されます。
- 健康診断: 健康診断時に骨密度検査をオプションで追加するのも一つの方法です。
骨粗鬆症の治療法
骨粗鬆症の治療は、骨密度を維持・改善し、骨折のリスクを減らすことが目標です。
- 薬物療法
- ビスホスホネート: 骨の吸収を抑制し、骨密度を増加させる薬です。
- カルシトニン: 骨からのカルシウムの流出を抑える作用があります。
- ホルモン療法: エストロゲン補充療法やSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、骨密度を改善するために使用されます。
- ビタミンDとカルシウムの補充: サプリメントで不足分を補うことができます。
- 注射:プラリア、テリボン、ボンビバ、イベニティ etc
- 理学療法とリハビリテーション
- 転倒防止のためのバランストレーニングや筋力強化のプログラムが取り入れられます。
まとめ
骨粗鬆症は、予防と早期発見が非常に重要な疾患です。バランスの取れた食事と適度な運動、生活習慣の見直しが骨折予防に繋がります。高齢者の方やその家族は、骨粗鬆症について正しい知識を持ち、定期的な検査と適切な予防策を講じることで、骨の健康を維持しましょう。骨粗鬆症のリスクを減らし、健康で安全な生活を送るために、今すぐできる対策を始めましょう。