肉離れ:奥脇分類でわかる重症度と治療の選択肢


導入:その「ブチッ」という感覚、放っていませんか?

全力疾走や急なストップ&ターンの瞬間、太ももやふくらはぎに「ブチッ」という衝撃を感じた経験はないでしょうか。いわゆる肉離れはスポーツ愛好家から日常生活のちょっとした動作まで、誰にでも起こり得る筋肉の損傷です。ところが応急処置だけで済ませてしまい、「やっと治ったと思ったらまた同じ場所が痛む…」と再発を繰り返す方が後を絶ちません。
この記事では 奥脇分類 を用いた重症度判定、MRI検査 の役割、PRP体外衝撃波治療(ESWT) など近年注目の再生医療的アプローチまで、最新エビデンスを交えてわかりやすく解説します。


背景・原因:筋肉を襲う“急ブレーキ”と“遠心性負荷”

肉離れは急激な筋伸長ストレスが筋線維に加わり、部分断裂や広範な出血を引き起こす状態です。特にハムストリングスや下腿三頭筋では「短時間で加速→減速」を繰り返す競技で頻発します。

  • 遠心性収縮:筋肉が伸ばされながら力を発揮する瞬間に発生しやすい
  • 柔軟性低下や筋疲労:ウォームアップ不足・水分不足・睡眠不足などが誘因
  • 過去の肉離れ歴:瘢痕組織が伸張性を失い再断裂の温床になる

奥脇分類:MRIで把握する3タイプ奥脇分類を正確に理解する:タイプ(損傷部位) × グレード(損傷度) の2軸評価に修正します

奥脇分類は 「どこが切れたか」だけでなく「どの程度切れたか」 まで同時に判定するシステムです。前回の記事ではタイプ(損傷部位)しか触れていなかったため、以下のように グレード(損傷度) を追加してアップデートします。

タイプ(損傷部位)代表的な部位グレード1(わずかな損傷)グレード2(部分断裂)グレード3(完全断裂)
Ⅰ型筋線維部(筋腹・筋間・筋膜)競技復帰目安:〜1.6週
Ⅱ型腱膜部(筋腱移行部を含む)復帰目安:平均2.0週平均6.4週平均9.8週
Ⅲ型骨付着部(坐骨・腓骨・脛骨付着部)多くは保存療法:〜3か月保存または手術:4〜6か月高率で早期手術検討:術後4〜6か月

数値は奥脇らのJISS分類に基づくハムストリング大腿二頭筋247例の平均復帰期間(カッコ内は症例レンジ)を引用しています。

これで何が変わる?

  1. 再発予防の精度が上がる
    同じⅡ型でもグレードが上がるほど修復時間は倍以上。MRIで腱膜の連続性が grade 1 → 3 へ進むほど、スプリント開始の可否 を厳密に再チェックする必要があります。
  2. 治療選択が明確になる
    Ⅲ型 grade 3 の坐骨付着部完全断裂は 受傷2週以内の手術が推奨。保存療法では瘢痕短縮を残しパフォーマンス低下を招くことがあります。
  3. リハビリ計画を個別化できる
    同じ腱膜損傷(Ⅱ型)でも grade 1 と 3 では理学所見だけで復帰判定すると再発率が跳ね上がるため、当院では grade 2 以上なら再撮MRIで腱膜修復を確認してからスプリント許可を出すことをおすすめしています。

診断・検査:エコーとMRIをどう使い分ける?

  1. 初期外来(受傷直後)
    • 視診・触診:腫脹、陥凹、皮下出血の分布を確認
    • 超音波(エコー):その場で血腫量や筋腱連続性を把握し、早期リハビリ計画に役立てる
  2. 48~72時間以内にMRI
    • T2スター/STIR で水分シグナルを検出し損傷範囲を正確に描出
    • 奥脇分類による重症度判定と予後予測
    • 深層筋や複数筋の同時損傷など見逃しを防ぐ (rinspo.jp)

治療:RICEから再生医療まで“段階的に”

基本は保存療法+段階的リハビリ

RICE処置(Rest・Ice・Compression・Elevation) を24~48時間実施し、疼痛と腫脹を制御。痛みが落ち着いたら ストレッチ→等尺性→等張性→プライオメトリクス の順で負荷を上げていきます。

再発・長期離脱を防ぐ先進治療オプション

  • PRP療法
    自己血液から濃縮した血小板を損傷部位へ注入し、成長因子が組織修復を促進。中等症以上の症例で復帰短縮が報告されています。(seikei-saisei.jp)
  • 体外衝撃波治療(ESWT)
    難治性や再発症例で疼痛軽減と治癒促進が期待され、競技アスリートに応用。副作用が少なく外来で施行可能です。(tokai-sports.jp)

当院での対応
豪徳寺整形外科クリニックでは、奥脇分類に基づくMRI読影とリハビリ主導型プログラムを基本とし、PRP・ESWTを含めた再生医療的選択肢も個別に提案しています。


安静期間と再発リスク:焦りは禁物

軽症Ⅰ型でも最低1週間の競技中止が推奨され、中等症Ⅱ型は約4週間、重症Ⅲ型では2〜3か月の離脱が一般的です。(fuelcells.org, okuno-y-clinic.com)
不完全治癒や柔軟性不足で復帰すると再発率が高まり、同部位再断裂が“癖”になることもしばしば。奥脇分類とMRIフォローで「治り切ったか」を客観的に確認し、再発予防のゴール設定 を行うことが近道です。


まとめ・受診案内

  1. 奥脇分類×MRI で重症度と復帰期間を予測できる
  2. 保存療法が基本だが PRP・ESWT が早期復帰を後押し
  3. 安静期間は重症度で大きく異なり、焦ると再発リスク増
  4. 再発防止の鍵は 柔軟性回復と段階的負荷
  5. 気になる痛みや違和感があれば、受傷直後から適切な診断が重要です。
    競技復帰を急ぎたい方も、まずは当院でMRIチェックとリハビリ計画を立てましょう。お気軽にご相談ください。

要約(ポイント)

  • 肉離れは遠心性負荷で生じる筋線維損傷
  • 奥脇分類(Ⅰ~Ⅲ型)はMRIで判定し予後を推測
  • 軽症1–2週、中等症3–5週、重症2–3か月が復帰目安
  • PRPやESWTなど再生医療的治療が選択肢に
  • 不完全復帰は再発リスク大、柔軟性・筋力回復が必須
  • 当院では個別の競技復帰プランを提供